新造船プロジェクトの始まり
大阪・南港から鹿児島・志布志間を就航する「さんふらわあ“さつま”“きりしま”」。
1993年にデビューした両船は、四半世紀におよぶ航海を経て、まもなくその役目を終えようとしている。
そのバトンを受け継ぐべく、現在横浜市にあるジャパンマリンユナイテッド株式会社(JMU)の磯子工場では、
新たな“さつま”“きりしま”を建造中だ。
そこで今回そのJMU磯子工場に赴き、新造船の建造現場取材を敢行した。
新造船の製造工程
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1. ブロック搭載開始
船の土台となるブロックの組み立て作業。船台やドックに運ばれ、船の形が造られる。
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2. 進水
船の大部分が出来上がり、水へ浮かべられる。進水の際には「進水式」が行われることもある。
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3. 上部構造搭載
操舵室などの運航に必要な区画や公室・船室などが組み立てられる工事。これら進水後に行われる。
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4. 海上運転(予行)
試運転を行い、船が設計通りに走行するかを確認。
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5. 海上公試
建造の最終段階で行われる性能試験。
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6. 完成検査
内部構造や塗装などの最終的な仕上げ、点検を行う。
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7. 完工・引渡
建造現場を知る
スペシャリストたちの想い
ビルやマンションの建築現場なら、人の行きかう街並みでもよく見かける風景だが、船舶の建造現場というとなかなかお目にかかれるものではない。ということで、2017年11月某日、二隻の新造船が建造されているJMU磯子工場へと足を運んだ。
「さんふらわあの新造船を当社で受注したのが2015年10月でした。設計から完成までの工程は約2年半。現在(取材時)“さつま”では旅客室や車両甲板部分などの仕上げ工程、“きりしま”では船体上部構造へのブロック搭載という工程に入っています。来年の春(さつま)と夏(きりしま)の完成に向け、着実に進んでいますよ」そう話すのは同社横浜事業所の商船営業グループ長を務める毛利克彦さん。様々な部署、担当にまたがり、新造船の建造には300名以上が関わるのだとか。
一方船舶の技術面に関しては、商船企画部で先端技術企画チーム長を務める阪口克典さんが話してくれた。「船舶においても燃費性能の向上や環境への配慮などは特に重要です。例えば、航海中はもちろんエンジンによる動力で船が進みますが、推進器の負荷を頻繁に変える港内ではモーターに切り替えることで、エンジンへの負荷が軽減し燃費も向上します。ハイブリッド車の駆動方式と同じ原理ですね。また船舶にも国際条約で定められた排ガス規制基準がありますので、新造船も大気汚染の原因となるNOx(窒素酸化物)の発生を基準以下に抑制しています。推進力の源となるプロペラは“二重反転プロペラ”を導入。「相互で逆回転するプロペラを二枚重ねることで、エネルギー効率が向上する仕組みとなっています」とのこと。
引き続き阪口さんに話を伺っていると、フェリーを設計・建造するうえでの注意点として「メタセンタ高さの重要性」という聞きなれない言葉が出てきた。詳しく聞くと「一般的に、タンカーやバルクキャリア(ばら積み貨物船)といった船舶は、甲板下に貨物を積むため船の重心が低くなり、船が転覆しにくい構造となります。しかしフェリーの場合は船体の中層部に重量物であるトラックを積むため、どうしても重心が高くなります。そのため、荒天時に、船が左右に傾いて転覆しないように元に戻す力(復原力)を保つ設計をしなければなりません。『メタセンタ高さ』とは、その復原力の目安のことを言います」と教えてくれた。さらに「船旅を楽しみにされているたくさんのお客様が乗船されますので、客室などに騒音や振動が届きにくいように設計することも非常に重要ですね」と続く。大きな船舶を安全に航行させるためには、幾重にもなるち密な計算が組み込まれているのである。
船体がひととおり出来上がれば、相模湾での試運転を経て、その後国交省立会による“海上公試”が行われる。これは船舶が安全に航行できるかを確認するためのいわゆる“最終テスト”で、船主の監督・艤装員、国交省の検査官やJMUのスタッフなど、100人以上乗船し、30~40にも及ぶ項目の検査が行われる。それを見事パスしたのち、最終的な仕上げや点検を経て、晴れてデビューとなるのだ。こうした話を聞くと、来春以降の新造船に乗るのがより一層待ち遠しくなる。
本記事は2017年10月30日(月)時点での取材に基づくものです。